なぜCriteoは強いのか。DSP・ADNWの入札の仕組み

前回の記事でCriteoをはじめとしたダイナミックリマーケティング広告について解説をしました。

記事の最後に「Criteoはかなり厳しい状況下にある」という表現をした一方で、Criteoはまだまだその存在感を維持し続けることができています。

今回はダイナミックリマーケティングの仕組みではなく、DSPの入札について解説をしながら、なぜCookie終焉時代においてCriteoは生き残っているかについて言及していきたいと思います。

インターネット広告のオークション入札

固定広告費から広告ランクの時代へ

まずはインターネット広告の大きな特徴でもあるオークション入札について説明をしたいと思います。

インターネット黎明期では、現在主流となっている運用型広告ではなく主に純広告の取引が盛んに行われていました。

純広告はテレビCMのような掲載先と掲載期間に応じて金額が決まる形式の広告であり、現在でもYahoo!のブランドパネルやGoogleのYoutubeマストヘッド広告などは、この純広告にあたります。

2002年にアメリカのOvertureとGoogle Adwordsが日本でサービスを開始し、オークション型の広告が本流になりはじめました。

当時のOvertureのオークションシステムは、入札金額に応じて掲載できるかが決まるという単純なシステムで、より高い入札をおこなった広告主は広告表示回数を増やすことができ、

一方でGoogle Adwords(現Google Ads)は、広告ランクという当時では斬新なシステムのもと、入札金額を含めた広告の質に応じて掲載できるかが決まるというシステムでした。

現在ではこの広告ランクに近い考え方は、多くの広告媒体(Yahooでは広告の品質、Facebookでは関連度スコア)で採用されています。

広告ランクは端的に説明すれば、その広告のCTRや検索クエリとの関連性が高ければ低い入札金額でも広告を掲載できる可能性が高まり、

大企業ほど大きな広告費を持っていない中小企業でも、積極的に広告を出稿できるようになった一つのきっかけといえるでしょう。

メディアサイドも儲かる仕組み

広告ランクという仕組みは、中小企業にも優しい素晴らしいシステムだと思えるかもしれませんが、少しだけ見方を変えて考えてみましょう。

GoogleやYahooは彼らの検索エンジンを無料で使用・提供している代わりに、広告枠を最上部に設けています。

検索エンジンを運営するためには、その分サーバーの維持費や通信代がかかります。彼らは検索されればされるほど、お金がかかってしまうため、その費用を広告という形で賄っているのです。

オークション入札が始まったと同時にクリック課金という課金制度がはじまったため、検索されて広告が表示されてもクリックされないと、GoogleやYahooは儲けを出すことができません。

そのため検索エンジン側としては、表示されたときにクリックがされやすい、CTRが高い≒質が高い広告をなるべく多く出すようにしたいのです。見方を変えると、CTRが高い広告はGoogleやYahooの稼ぎ頭になるわけですね。

最終的に、OvertureはGoogle Adwordsのシステムの前に敗北し、現在に至るまでこの広告ランクという考え方が主流となってきているのです。

Overtureが負けた理由は少し考えれば分かることで、単純に入札額が高いだけで広告掲載が決定するのであれば莫大な広告費を持っている大企業しか掲載することができず、取引先の広がりがGoogleに比べ小さかったからだと言えるでしょう。

また一方のGoogleは、彼らのミッションである「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使える」という考えのもと、広告ランクという素晴らしいシステムを生み出し、質の良い広告=ユーザーにとって有益な広告の表示機会を増やし、インターネットの普及を加速させ、且つ大幅に売上を伸ばすことができたのです。

Googleを称賛する話は置いておき、とにかく「広告」というものはメディアが儲かってなんぼということを念頭に置いた上で、DSP・ADNWについて解説をしていきます。

DSP・ADNWのオークション

ADNWの誕生

そもそもDSP・ADNW(アドネットワーク)とはなんでしょうか?まずはADNW(アドネットワーク)から解説をしていきたいと思います。

今ほどシステマチックにインターネット広告の取引が行われていなかった頃、広告主は各広告メディアに対して個々の取引が行われていました。

現在では形骸化されてしまった業態ですが、CCIやDACをはじめとするメディアレップ(広告主と広告媒体の仲介)という業種・役割はこの頃非常に重宝されました。

そんな中でも広告主やメディアレップは、そのインターネットの爆発的な広がりによって、指数関数的に増えていく広告メディアの管理に手を焼いていました。

それぞれの広告メディアはそれぞれに特徴があり、例えば「広告媒体Aは10,000IMPで1万円/月」「広告媒体Bは500Clickで3万円/月、広告媒体Cは50,000IMPで6万円/月・女性がたくさん訪れるサイト」などと、

課金形態や閲覧しているユーザー属性、契約形態などがバラバラであったため、広告主自身にあったメディアを探すことが非常に大変で、且つ非効率的な状況にありました。

そんな中でADNWは生まれ、それまで煩雑だった広告メディアを1つのネットワークとしてまとめ、配信・入札を一元管理できるようになったのです。

YDA(Yahoo! Display Ads)やGDN(Googleディスプレイネットワーク)は、その名の通りYahoo・Googleが所有するアドネットワークです。

YDA・GDNをはじめとする多くのADNWはクリック課金が採用され、またリスティング広告のように広告ランクが導入され、ディスプレイ広告の取引は爆発的に伸びていきました。

しかしその一方、GDN経由でYahooが保有するネットワーク内に配信ができないなどの問題はあり、広告主は複数のアドネットワークを使うなどして、自社の広告のリーチを拡大していきました。

そしてそこで新たにアドエクスチェンジという概念が生まれ、複数のアドネットワークを更に一つに束ね、異なるネットワークへの配信も可能になりました。

SSPとDSP

よくSSPアドエクスチェンジは一緒に語られることが多いですが、概念は違えど今ではほぼ同じ機能を持っているので、同じ意味だと捉えても大きな間違いではないと思います。

SSPとはSupply Side Platformの略で、広告メディアの広告収益最大化を目指すものです。OpenXやfluct、Ad Generationなどが有名ですね。

一方のDSPはDemand Side Platformの略で、広告主側の広告費用対効果最大化を目指すものです。FreakOutやLogicad、KANADEなどが有名です。また今回解説を行うCriteoもカテゴリ的にはDSPに属します

SSPとDSPの仕組みを以下のように図にしてみました。

まずSSPと接続している広告メディアの出稿が決定すると、SSPからDSPに対して「その枠に対していくらで入札をするか」というリクエストが送られます。

その際にDSP側では、その配信ユーザーの持っている年齢・性別・興味関心などのデータから、そのDSPを使っている広告主にとって有用なユーザーであるかということをそれぞれのDSP独自のロジックで計算し、どの程度の入札額であれば広告主にとってメリットを享受できるかを判定します。

その上でSSP側に入札額を返し、SSPはその中で最も入札額が高いDSPを決定し広告を掲載します。

さて、ここまででお分かりいただけたでしょうか?広告掲載まで流れ・仕組みの中で、最も強い立場にあるのは広告メディアなのです。

もちろん広告主にとっても儲かるように、DSPは日々ロジックの開発・改善を進めてはいますが、前段でも解説したとおり 「広告」というものはメディアが儲かってなんぼ ということがここでも分かると思います。

DSP・ADNWの入札の違い

次にDSP・ADNWの入札の違いについて解説をします。

前述の通り、YDN・GDNを中心としたADNWではクリック課金が採用されているケースが多いです。

一方で殆どのDSPはCPM課金が採用されています。CPM(Cost Per Mille)課金とは、1,000IMP単位で広告費が支払われる課金モデルです。

さてメディアが儲かってなんぼという状況の中で、メディアにとってCPM課金とCPC課金のどちらが好まれるでしょうか?

答えはCPM課金の方がメディアに好まれます

なぜならインプレッションを販売している広告メディアにとって、IMP毎に課金が保証されるCPM課金の方が、収益を確保できる可能性が高いからです。

DSPの場合だとCPM入札を1,000円でかけていれば、各フローで支払う手数料等を考えなければ1,000IMPあたりの収益は1,000円が確約されます。

一方でクリック課金のADNWの場合、広告メディア側の収益は入札額とCTRに依存することになります。

例えば入札額が1クリックあたり100円の場合、CTRが0.5%だと広告メディア側が見込める収益は500円になってしまいます。

CTRが1.0%の場合だと、広告メディア側が見込める収益は1,000円になりますが、その1,000円は決して確約されたものではありません

更にいえばオークションの仕組み上、このCTRはほとんどのケースで「推定値」が使用されます。このとき、実際のCTRよりも推定値が高く算出されてしまった場合はどうでしょうか?

推定のCTRは1.5%だから1,000IMP毎に1,500円儲かる!という計算のもと、あるADNWの入札を受け入れたが、実際のCTRは0.5%だったらメディア側が儲かりませんよね?

何が言いたいかというと、このときのADNWのCTR計算はかなりコンサバティブ(保守的)に行われており、仮にCTRがADNWのCTRが1.0%、入札額が1クリックあたり100円でも、CPM入札の方が優先されるケースが多いのです。

でもそうなると広告主側は、クリック単価が安価なADNWでの出稿ボリュームが減ってしまいますよね?でもDSP入札の場合はユーザーがサイトに訪れようが訪れまいが、IMPで課金がされてしまいます。

1つ言えることは、DSPを使うならばCTRが高い広告を出稿したほうがお得なのです。

なぜCriteoが強いのか?

CriteoはDSPなのにCPC課金が成り立つ理由

それではなぜ、CriteoはDSPの中でも強いのかということについて言及していきたいと思います。

Criteoはfluct、AdGeneration、Genieeなど多くのSSPと提携しているほか、Yahooが保有するディスプレイアドネットワークへ配信ができる数少ないDSPです。

あまりCriteoは自身がDSPであると公言していませんが、SSPと提携している以上、仕組みはDSPといっても問題はないでしょう。

そんなCriteoは、DSPの中でも珍しくCPC課金であることが非常に特徴的です。

前述したとおりCPM課金とCPC課金を戦わせたときに、CPC課金の方が不利になることは分かっています。

しかしCriteoは大きく2つの理由で、このCPC課金を成り立たすことができています。

1つめは、その圧倒的なCTRです。

CPC課金とCPM課金がオークションでバッティングするとき、CPC課金の広告掲載は推定CTRを使って推定収益を算出し、CPMとオークションで戦います。

CriteoはこのときのCTRが非常に高くなるため、低い入札金額でも他のCPM課金に負けることなく、オークションに勝つことができているのです。

その圧倒的なCTRを生み出すダイナミックリマーケティングの仕組みは前回記事で解説をしました。ユーザーに適した広告を配信することで、高いCTRを弾き出すことができているのです。

2つめは、Yahoo!面を含むYahoo!ディスプレイアドネットワークへの配信ができるためです。

いまではGoogleのDisplay & Video360(旧Doubleclick Bid Manager)でもYahoo!面への配信ができるようになりましたが、Criteoが日本でサービスを開始した当時は、唯一Yahoo!面への配信ができるDSPだったのです。

現在はYDAでもダイナミックリマーケティングができるようになりましたが(動的ディスプレイ広告)、当時Yahoo!面でダイナミックリマーケティングを実施するならCriteoしかない、といえるほどCriteoがYahoo!面へ配信できることは大きな強みだったのです。

Yahoo!との提携がうまくいった?

ここからはあくまで推察になります。

おそらく、CriteoはYahoo面の買付をかなり相場よりも低い値段でできたのではないか?と考えています。

当時ダイナミックリマーケティングという技術は、インターネット広告業界において革新的であり、GoogleやAdRollなど、様々なDSPやADNW事業会社がそのシステム導入を進めていました。

その中でYahoo!は出遅れないようダイナミックリマーケティングの開発を進めようと考えたものの、なかなかその当時のリソースではすぐにリリースすることはできなかったのではないでしょうか。

その流れでCriteoとの提携を決定し、Yahoo!面を初めて他社に提供することになったのだと思います。

もちろんYahoo!は広告メディア側の立場であったため、自社の収益が最大化するようインプレッション単価の交渉をしたと思います。

一方でCriteoも自社のサービスに自身があり、広告主側の成果が高まる=Criteo経由で出稿したい企業が増える=Yahoo!の収益が高まると考えていたため、少しでも安い入札額でもYahoo!面への配信ができるように交渉をしたと思います。

その折り合いがついた結果が、おそらくいまのCriteoが安いCPCで高い成果を上げることができている理由なのだと思います。

まとめ

Criteoが今でも強い理由をダイナミックリマーケティング、DSPとADNWの入札の違い、という2つの視点で解説してきました。

前回記事でも伝えたとおり、Cookie終焉時代の今日において、Criteo含めダイナミックリマーケティングの活用は徐々に減っていくことが想定されます。

しかし今回の記事で、CPM入札のDSPに可能性についても気づけていただければ非常に嬉しく思います。

入札の優先順位という観点においては、DSPは非常に強い立場にあることは明確です。

今まで日本ではDSPはリマーケティングでの活用が殆どでしたが、今後Cookieが終焉する未来の中では、いかに良い面に対して良いクリエイティブでCPM入札をするかという視点が重要になってくると考えています。

それについてはまた別機会に解説をしていきたいと思います。

DSPやADNWの特徴を捉えた上で、自社にあった適切な広告メディアの選定をおこなっていきましょう。